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CTF・セキュリティ学習

【横展開編】Pass-the-Hash/Pass-the-Ticket/PsExec・WMIで広がる侵入|CTF思考フレームワーク #37

かも次郎とアンペンが「横展開」を解説するマスコットイラスト
安全に生きたい編集部

こんにちは、アンペンです!

前回は、LSASS・SAM・DPAPIから資格情報が抜かれる流れを扱いました。

今回は、抜いた認証情報を使って『隣の端末・サーバへ進む』横展開(Lateral Movement)を見ていきます。Pass-the-Hash・Pass-the-Ticket・PsExec/WMIで広がる侵入と、その守り方を学びましょう。

奪った認証情報で、他のPCにもアクセスできちゃうの?

同じローカル管理者パスワードを使い回していると、1台奪われると同じ鍵で他端末にも入れる。これが横展開の典型シナリオだよ。

前回、攻撃者が侵入後にまず“鍵束”を抜く話をしました。今回はその続き——抜いた鍵を使って、隣のPC、その隣のサーバ……と侵入を広げていく『横展開』です。ニュースで聞く「社内の何百台が被害に」という大事故は、たいていこの横展開で広がります。最初の1台は、攻撃者にとってゴールではなく“拠点”。今日はマンションのマスターキーのたとえで、その広がりと、止め方を見ていきます。

まず結論

横展開は、奪った認証情報やチケットを使って隣のホストに侵入を広げる工程です。Pass-the-Hash/Pass-the-Ticket/PsExec/WMIが定番。守りは『鍵の使い回し禁止(LAPS等)』『SMB署名』『管理者用途のtier分離』の組み合わせです。

この記事で分かること

  • 横展開が成立する典型シナリオ
  • PtH・PtT・PsExec/WMIの違い
  • LAPS・SMB署名・tier modelによる守り方
難易度:上級向け 所要時間:11分 体験:管理者運用を点検 おすすめ:#36の後

📖 はじめてのWebセキュリティ #37|横展開編
『1台奪取から組織全体へ』広がる経路と、それを断つ運用を学びます。 シリーズ一覧を見る →

⚠️ 大事なお約束
横展開のテストは、自分が管理する検証ドメインやCTFのみで行ってください。他者のネットワーク内でPtH等を試す行為は不正アクセス禁止法に該当します。

横展開は『鍵の使い回し』が大前提

横展開の多くは、 同じ認証情報が複数ホストで通用する状況を前提に成立します。代表的なのは、すべての端末で同じローカル管理者パスワードが使われているケースです。

1台端末を奪い、そこからLSASS等で鍵を抜くと、攻撃者は『他の端末にも本人として入れる』状態を手にします。ここから組織全体に広がっていきます。

ここで、攻撃者にとっての“最初の1台”の本当の価値が見えてきます。彼らが欲しいのは、その1台のデータそのものではないことが多い。狙いは、そこを“足場(拠点)”にして、より価値の高いサーバ——たとえば全社のデータが集まるファイルサーバや、ドメイン全体を支配できる管理サーバ——へ少しずつ近づくこと。だから守る側は「1台入られた」時点で諦めるのではなく、「そこから先へ進ませない」ことに全力を注ぐわけです。

なぜ、1つの鍵で何台にも入れてしまうのでしょう。原因の多くは“管理のラクさ”です。たくさんのPCを管理するとき、ローカル管理者のパスワードを全台で同じにしておくと、運用がとても楽。どのPCにも同じ合言葉で入れますからね。でも、その“楽さ”は攻撃者にとっても“楽さ”。1台からその共通パスワードを抜けば、同じ鍵で全台に入れてしまう。便利さと危うさは、ここでも背中合わせなんです。

図解:単独侵入 vs 横展開

1台で封じ込められた状況と、横展開で全体に拡大した状況を比較したネットワーク図
鍵の使い回しを断てば、1台落ちても1台で止まる。

同じ侵入経路でも、横展開対策の有無で被害範囲がまったく違います。

全戸が同じマスターキーで開くマンションで1本盗まれると全戸が危機になるたとえ図
全戸が同じマスターキーだと、1本盗まれた瞬間に全戸が危機。管理者パスワード共通化と同じ。
🔑 たとえるなら、マンションのマスターキー

もし全戸が同じマスターキーで開いてしまうマンションがあったらどうでしょう。1戸の住人が鍵を盗まれた瞬間、全戸が同時に危機にさらされます。組織のローカル管理者パスワードを全端末で共通にすることは、まさにこの『マスターキー1本運用』に近い状態です。

ここで覚える用語:LAPS
Local Administrator Password Solution。Microsoftが提供する、各端末のローカル管理者パスワードを端末ごとに固有化する仕組みです。横展開の前提を崩す最も効果的な対策の一つで、現代のWindowsドメイン環境では必須に近い扱いです。

『LAPS』は、さっきのマスターキー問題への直球の答えです。やることはシンプルで、各PCのローカル管理者パスワードを“全部バラバラ”にして、しかも自動で管理する。たとえるなら、全戸同じだった合鍵を、部屋ごとに違う鍵に付け替えるようなもの。こうすれば、1台から鍵を抜かれても、その鍵で開くのはその1台だけ。横展開の“大前提”が崩れるので、地味ですが効果は絶大です。

横展開の代表3手法

横展開の代表的な手口は3つ。『パスワードを知らなくても、その“指紋(ハッシュ)”だけで入る(PtH)』『発行済みの“通行証(チケット)”をそのまま使い回す(PtT)』『リモート実行の仕組みで隣のPCにコマンドを送る(PsExec/WMI)』。ここで驚くのは、最初の2つ——平文パスワードを“知らなくても”侵入できてしまうこと。鍵そのものでなく、鍵の“写し”で十分なんです。

代表的なテクニック

Pass-the-Hash・Pass-the-Ticket・PsExec/WMI/WinRMの3手法を示したカード型インフォグラフィック
①PtH ②PtT ③PsExec/WMI/WinRM。守りはLAPS+SMB署名+tier分離+EDR。
  • Pass-the-Hash (PtH):NTLMハッシュをそのまま渡して認証する。パスワード平文不要
  • Pass-the-Ticket (PtT):Kerberosチケット(TGT/TGS)をそのまま使い、他ホスト/サービスにアクセス
  • PsExec / WMI / WinRM:SMB・RPC・PowerShell Remoting等のリモート実行でコマンドを実行

これらは個別のテクニックですが、攻撃シナリオでは『資格情報窃取 → PtH/PtT で隣に入る → PsExec/WMI で操作』のように連結して使われるのが普通です。

ここまで読むと気づくかもしれませんが、この章の話は全部つながっています。「侵入(前章まで)→ 鍵束を抜く(#36)→ その鍵で隣へ(PtH/PtT)→ リモート実行で操作(PsExec)→ また鍵束を抜く……」と、同じ動作を繰り返しながら、攻撃者はジワジワと組織の中枢へ向かう。一連の流れは“キルチェーン”とも呼ばれます。逆に言えば、この鎖のどこか1か所を断てば、全体の進行を止められる。守る側にとっては、それが希望でもあります。

練習は、自分が管理する環境で『1台落ちたら、何台に広がるか』を点検することです。ローカル管理者パスワードはバラバラ?管理者は業務PCに直接ログインしてない?——攻撃ではなく、自組織の“延焼しやすさ”の健康診断ですね。なお、AD全体の侵入経路を可視化するBloodHoundのようなツールも、必ず自分の検証環境だけで。他組織のドメインに向けるのは厳禁です。

CTFでやってみよう:管理者運用を点検

やってみよう / 自分が管理する環境のみ

自分のドメイン/端末群で、管理者鍵の使い回し状況を確認しよう

目的は実際の攻撃ではなく、『1台奪われたら何台に広がるか』を可視化することです。

  1. 各端末のローカル管理者パスワードが固有化されているか(LAPS導入有無)を確認
  2. ドメイン管理者アカウントが、業務用PCに直接ログオンしていないか確認(tier model)
  3. SMB署名・暗号化が有効か、SMBリレー対策(EPA等)が入っているか確認
  4. PsExec・WMI・WinRMのリモート実行に対するEDR検知が動いているか確認
  5. BloodHound等のADグラフ可視化ツールで、特権昇格経路を点検する(自分のラボのみ)
他者の本番ドメインでBloodHound等を実行することは絶対にやめてください。確認は自分が管理する検証環境だけです。

守りの考え方の中心は、『1台落ちても、1台で止める』。その要になる“tier(階層)分離”を会話で押さえましょう。

管理者は便利だから、自分の作業PCからも全サーバに入れるようにしてるけど、ダメなの?

気持ちは分かるけど、それが一番危ないんだ。もしその作業PCがメール添付などで乗っ取られたら、そこに残った管理者の鍵で、いきなり全サーバが落ちる。だから“管理者専用の、ネットも用途も絞った端末”からしか重要サーバを触らない、と階層(tier)を分ける。日常使いのPCと、お城の金庫を開ける作業は、別の机でやる——そう住み分けるだけで、1台の事故が全体に飛び火しにくくなるんだよ。

守る側なら、「LAPS+SMB署名+tier分離+EDR」

横展開の守りは、「鍵の使い回しを物理的にできなくする(LAPS等)」「横通信を強化(SMB署名・EPA)」「管理者操作のtier分離」「振る舞いをEDRで検知」の4点が中心です。

守るための基本チェック
  • ローカル管理者パスワードをLAPSで端末ごと固有化
  • ドメイン管理者は業務PCに直接ログオンしない(tier 0/1/2の分離)
  • SMB署名・暗号化を必須化し、SMBリレー対策(EPA)を有効化
  • PsExec/WMI/WinRMの異常な利用をEDRで検知
  • NTLMをできる限り廃止し、Kerberos・MFA移行を進める
  • ネットワーク分離(VLAN/マイクロセグメンテーション)で水平通信を制御

『鍵の使い回しを断つ』だけで、被害範囲が大きく変わるんだね。

そう。LAPSとtier分離は『地味だけど一番効く』対策。EDRで検知も組み合わせるのが現代の基本だよ。

ここまでをひと言で言うと、横展開の守りは『延焼させない設計』です。火事と同じで、出火(侵入)をゼロにはできなくても、防火壁(鍵の固有化・tier分離・ネットワーク分離)があれば、1部屋の火事を建物全体に広げずに済む。攻撃者が大好きな“鍵の使い回し”を断つだけで、被害規模はまるで変わってきます。

まとめ:『1台落ちて1台で止める』設計

今回のポイント
  • 横展開は鍵の使い回しを前提に成立する
  • 3手法はPtH / PtT / PsExec(WMI/WinRM)
  • 守りはLAPS+SMB署名+tier分離+EDR
  • 『1台落ちて1台で止まる』設計を意識する

今日の持ち帰りは『最初の1台は“拠点”、本番はその後』です。1台の侵入を完全に防ぐのは難しい。でも、そこから組織全体へ広がるのを止めることはできます。鍵を端末ごとに変え(LAPS)、管理者の作業を分け(tier)、横通信を絞る。“1台落ちて1台で止まる”——この一言を目標に置くだけで、守りの優先順位がはっきりします。

次回は、Linuxカーネルやコンテナエスケープを扱います。DirtyPipeからDocker socket悪用まで、隔離の壁を破る攻撃と守り方を見ていきましょう。

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参考資料

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